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2020以降の日本経済×不動産市場

上武大学ビジネス情報学部 田中秀臣教授寄稿記事トップ画像

東京オリンピック後の日本経済と不動産

今回の寄稿では、経済学者としてメディアをはじめとした多方面でご活躍されている「田中 秀臣」氏(上武大学ビジネス情報学部教授・経済学者)にご寄稿いただきました。

テーマは「東京オリンピック後の日本経済と不動産」です。

2020年東京オリンピックに向けて日本各地で新たな建造物が建てられ盛り上がりを見せていますが、増税後の今暮らしに若干の不安が漂っています。

不動産投資や土地活用を考えている人ならば一層気になっているのではないでしょうか。

本記事では

  • これまで不動産市場はどう変化してきたか
  • 増税/オリンピック後の日本経済はどうなっているのか
  • 今後の日本に求められる経済・不動産政策とは

など、専門家として客観的なデータや研究からご解説いただいています。

不動産市場は経済の動きと密接に関わっているため、不動産に関わるのであれば日本経済を理解し予想をすることは必須。

不動産投資・不動産活用を検討している方もはぜひ一読ください。

【寄稿者プロフィール】

たなか ひでとみ
田中秀臣
上武大学ビジネス情報学部・経済学者

専門は経済思想史・日本経済論。
サブカルチャーやアイドルにも造詣が深い。
『昭和恐慌の研究』(共著・東洋経済新報社)で第47回日経・経済図書文化賞受賞。
文化放送『おはよう寺ちゃん活動中』火曜コメンテーター。『iRONNA』等、ネット連載多数。

【著書】
・『増税亡者を名指しで糾す!』(悟空出版)
・『雇用大崩壊』(NHK出版生活人新書)
・『経済論戦の読み方』(講談社現代新書)   など。

Twitter:@hidetomitanaka

戦後の日本と人々の暮らし

東京オリンピックと不動産は個人的に懐かしい話題でもある。

「懐かしい」と書いたからには、この場合の“東京オリンピック”は前回(1964年開催)のものだ。

カスリーン台風(1947年)当時、葛飾区に住んでいた一族は堤防の決壊で水没する被害を被った。

戦前から古物商をしていた祖父母とまだ12歳だった父親は店舗を失ったが、しかしめげなかった。

その水害は、彼らにビジネスのヒントを与えた。

高潮や洪水の対策で堤防などの建築がすすみ、現場作業員たちに豆腐などの食品を販売する「弁当屋」を始めて成功する。

やがて1950年代初め、その資金を元手にして都内(※今の東京都新宿区初台)で不動産業を始めた。

戦争による焼け野原がまだ広がり、いまの表参道の高台に立つと初台の店舗から掲げる広告の幟が見ることができたという。

1950年代以降の日本経済と不動産市場の動き

1950年代前半、不動産市場の各種法制度が整備される

当時の不動産業はいわゆる「大手」企業が参入してはおらず、中小の不動産がひしめく群雄割拠の状態だった。

1950年代前半、不動産市場の各種法制度の整備がスタート。

(例)

  • 宅地建物取引業法が成立
  • 住宅市場への政府の本格的な介入

また1950年に住宅金融公庫法が施行。

固定利率で所得中間層への積極的な公的援助が行われ、一気に都市部の持ち家率が上昇し始めた。
(引用:平山洋介『住宅政策のどこが問題かー<持ち家社会>の次を展望する』光文社新書)

地方から都市にむけて人々が移動し、東京や大阪、名古屋などの大都市圏で意欲的な消費を行う担い手になっていく。

田中家もやがて高度成長となるこのビックウェーブに乗って、不動産業を拡大していく。

一時期は都内でも有数の業者にのし上がっていて、従業員数百人を擁していた。

筆者の最初期の記憶には、幼い自分に専属の社員(!)がついていたのを思い出す。

また使った広告費も多額で、新聞社から顕彰されて、小学生の体くらいはある巨大な腕時計をもらった。

その巨大な腕時計は長く、家に掲げられていて、たまにそれをチャンピオンベルトの代わりに腰にまいてプロレスごっこをしたものである。

日本経済の飛躍に貢献した3つのポイント

昭和の東京オリンピックは、所得倍増計画など政府のマクロ経済政策のコントロールもよく機能。

また民間中心の経済活動が興隆していた絶好期に準備され、開幕した。

オリンピックのための東京のインフラ整備は、オリンピック終了後も継続し、それも経済の下支えとなった。

  1. 経済圏を支えるインフラ整備
  2. 成長志向のマクロ経済政策
  3. 旺盛な消費と投資活動

の三点が日本経済の飛躍に大きく貢献した。

令和の東京オリンピック後の不動産市場と日本経済を考える上でもこの三点は重要だ。

上向き経済に比例して不動産市場も好転

経済の好調・不調が不動産市場に影響を与えるのは直観的にもわかりやすいだろう。

経済の規模(実質GDP、名目GDP)が拡大すれば人々の可処分所得が増加

それによって耐久消費財や住宅の購入も増加する。

企業の設備投資も堅調になるので、オフィスなど商業不動産に対する需要も伸びる。

もちろん経済が好調になるだろうという予想は、株価の現実値を押し上げて「不動産投資」などのマイルドな投機を誘発していくだろう。

これらはバブルとは違う現象であり、経済の実態の回復と歩調を合わせるものだ。

不況に落ち込んでいればこれと逆の方向の現象が起きる。

2012年~安倍政権が与えた経済・不動産市場への影響

2012年9月安倍氏の総裁選勝利で株高・為替安

2012年9月に安倍晋三氏が自民党総裁選に勝利し、民主党政権に代わって次の政権を担うと期待された。

このことが株高と為替安の現象を引き起こした。

なぜなら安倍氏は当時、インフレ目標政策を中心とした金融緩和政策を強く採用すると表明。

“表明が本物の決意である”と市場が予想したからだ(=「レジーム転換」)。
※政策スタンスを変更することで、市場参加者の経済への予想を転換すること。

それまでの民主党政権は、消費増税の法案可決など、緊縮デフレ政策を採用したのでまさに真逆の政策である。

後に安倍氏は首相の座につき、アベノミクスを開始。

しかし「すでに総裁選勝利から実体は始まっている」というのが、われわれの主張だ。
(参照:田中秀臣編『日本経済は復活するか』藤原書店など)

アベノミクス、2回のレジーム転換で経済成長に成功

実際に政権についてからも安倍首相は公約通りにインフレ目標政策を日本銀行の幹部を一新することで果たした。

このときもレジーム転換がおきていて、つまりは当初のアベノミクスは二回ほどのレジーム転換で経済を浮揚させることに成功した。

例えば、実質GDPをみてみると、2012年第四四半期(※)~2013年第四四半期までに2.6%の成長を成し遂げている。
※第四四半期…10月から12月までを指す。

株価はこの間

  • 平均70%以上の上昇
  • 円ドルレートは約25%の円安

に加えて雇用状況も大きく改善に向かった。

物価上昇率もコアCPI(※)の前年度比でみると、2012年度のマイナス0.2%から2013年度は0.8%まで急上昇している。
※生鮮食料品を抜かす消費者物価指数。

消費増税や国際経済の低迷などがあったが、日本銀行が継続的な金融緩和姿勢を変えないことが、日本経済を長期停滞からなんとか脱出させたことは自明である。

もちろんまだデフレも脱却していない不十分な点はあるにせよ、“いままでは”合格点をあげていい。

嘉悦大学教授の高橋洋一氏は80点をあげるそうだが、僕は70点といったところか。

レジーム転換後、不動産価格指数はプラスに

景気の好不況が、不動産市場の好不況にも影響を与えているのかどうかデータで確認しておこう。

国土交通省の不動産価格指数(住宅用、商業不動産用)をみるとそのことが簡単に確認できる。

2009年4月から2012年8月(最初のレジーム転換前まで)の不動産価格指数の住宅総合(対前年比平均)はマイナス1.14。

しかしレジーム転換後は今日までプラス1.91である。

同様に商業不動産の不動産価格指数(対前期比平均)は

  • 2009年第二四半期~2012年第三四半期:マイナス3.25%
  • 2012年第四四半期以降:プラス3.27

である。

直近の数字をみると不動産価格指数が低迷しているが、これは景気の減速と無縁ではない。

令和の東京オリンピック後の日本経済と不動産市場

令和の東京オリンピックでも成長志向のマクロ経済政策を

では話は戻って、令和の東京オリンピック後の日本経済はどうだろうか?

昭和のオリンピックの時と同じように、まずは成長志向のマクロ経済政策がキーになる。

不動産市場だけでなく、民間の消費や投資活動もこのマクロ経済政策によってかなり影響される。

2019年消費増税後の経済は下降気味

現状では、消費増税が8%から10%に引き上げられ、その悪影響が次第に見え始めているところだ。

政府は軽減税率やポイント還元、さらには増税分を教育無償化にあてるなど消費増税対策を喧伝してきた。

しかし、増税直後の10月の小売販売は7.1%減少で、前回14年4月の増税による落ちこみを上回っている。

背景としては先述した通り、前回の増税時はアベノミクス初年度の効果がフルに発揮されている時期であったからである。

つまり消費と投資、雇用などが急激に回復している時期にあたった。しかし今回は違う。

日本だけでなく世界的に経済は下向き

米中貿易摩擦の影響をうけて、世界と日本の経済は明らかに下降局面にある。

例えば「消費者態度指数」(※)を見ると、前回の消費税増税“後”の状態まで落ち込んでいた。
※これからの消費動向を予測する指数のこと。

その中での消費増税だったのである。

最近の不動産価格指数の低迷もこの景気悪化を反映したものであることは先に指摘したとおりである。

つまり最悪のタイミングで増税をしたことになる。

しかも消費税は恒常的な影響をもつ。

つまり小手先の景気対策ではなかなかその悪い影響を払拭できないのだ。

金融緩和・補正予算で第3のレジーム転換を

消費税増税が最悪のタイミングであったとすれば、不動産市場にも長い時間にわたって悪影響を及ぼしかねない。

まだ消費増税後の不動産市況を判断できるだけのデータがないので推測でしかないが、緩やかに2012年9月以前の長期停滞にふたたび陥るリスクもある。

現状で政府は

  • 真水10兆円
  • 事業規模20兆円

での補正予算を打ち出す構えを表明しており、今回はいわゆる「赤字国債」の発行も辞さないという考えだ。

だが他方で、緊縮財政を志向する財務省、さらにはそれを代弁する機能しかもっていない経団連からは補正予算案に反対の声が出ている。

綱引きが本格化していくだろう。

しかし補正予算は一時的な財政支出にすぎないため、消費税の長期的な悪影響を払拭するには力が不足する。

日本銀行の積極的な金融緩和は維持されているが

  1. さらなる一段の緩和
  2. 政府の補正予算

が組み合わされば、力強いメッセージを市場に送ることができる。

政府と日銀がうまく協調できれば、ふたたびレジーム転換が起きる可能性もある。

それは東京オリンピック前とそれ以後の経済、そして不動産市場を下支えすることは間違いない

今求められているのは「防災インフラ」

さらに令和の東京オリンピック後でもインフラ整備は重要だ。

昭和のときは、東京オリンピック後でもインフラ整備は活発だった。

  • 道路
  • 港湾
  • 鉄道
  • 空港

の整備はその後の経済成長の安定に大きく貢献した。

もちろん今日は事情が異なる。

特にいま社会で求められているのは、度重なる自然災害に対応した「防災インフラ」だろう。

防災インフラを長期的な経済の安定に結びつけるのは、そのインフラ投資が長期間続くと人々が期待するものがいい。

これはインフレ目標政策と同じように、人々の期待をコントロールする政策である。

ワシントン大学ブルッキングス研究所特別教授スティーブン・D・ウィリアムソン氏は以下の通り指摘した。

  1. 財政支出を行う新たな省庁を設置
  2. 人々が長期の財政支出を期待する
  3. 財政政策が長期的効果をもつ

この提案を活用して、かつて筆者は「国土強靭省」を提案したことがあった。

もちろん省庁の構築にこだわらない代替案として、政府が「防災ファンド」を設立することも検討できる。

防災ファンドの資金的なファイナンスは、日本銀行が防災国債購入と見返りに提供または付随的に民間の融資を募るのもいいだろう。

実施する防災インフラ投資は、費用便益分析をベースにすべきだ。

ただし現状では、インフラ投資の判断基準である費用分析に利用されている利回りはあまりに高く、非常識ですらある。

かなりの防災インフラが実行不可能となるため、見直しが必要だろう。

また防災インフラは不動産の有効利用につながる面もあると考える。

「中核都市構築」政策で格差是正を目指す

30万人の中核都市を点在させる

令和の東京オリンピック後の経済は

  1. 成長志向のマクロ経済政策
  2. (当該経済政策による)民間の消費と投資の回復と安定
  3. 防災インフラを中核にした公共投資

がキーになるだろう。

もちろんこれらと同時に、不動産市場の規制の緩和や構造改革も促進することが望まれる。

特に人口減少と高齢化の中で、地方を含めた都市部への集積が必要になってくるだろう。

具体的には、域内人口が30万人になる中核都市をいくつも構築する必要がある。
(参照:田中秀臣・飯田泰之・麻木久仁子『「30万人都市」が日本を救う』藤原書店)

住む場所が人の暮らしを変化させる

評論家の速水健朗氏が指摘したように、現状では東京への一極集中が進行

それにより「住む場所が人の暮らしの格差をもたらす」という現象を招いている。
(参照:速水健朗『東京どこ住む?』朝日新書)

これは世界的に観測される現象で、住む場所によって人の所得、教育、社会保障の格差が生まれてしまう。

速水は特に皇居を中心とした半径5キロ(※)にこの10年ほど極端に住民増加がみられると指摘している。
※千代田区、港区、中央区、文京区など)

この地域は

  • 平均年収
  • 人口増加率

が高いだけでなく、不動産の単価上昇率も高い。

注意すべきは、平均的に年収や資産の多い人が流入しているから、この区域の所得・資産が高まるのではないことだ。

速水はむしろ逆で、これらの地区に住むからこそ平均年収などが向上するというのだ。

人口集積コントロールで格差なき社会を

人口の集積がビジネス、教育などで正のフィードバックを生み出すことになる。

これは学校の教室の隣に優秀な学生がいて、その人に勉強を教えてもらったりするうちに自分の成績があがるのに似ている。

あとから来た人も同じ恩恵をうける。

もしこの仮説が正しいとするならば

  • 地方にも核になる30万人規模程度の都市を生み出す
  • 規制の緩和や適切な公的介入

など、東京への一極集中はある程度、緩和させる必要がある。

それが新しい国土のより格差なき社会を生み出すことにもつながるだろう。

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-不動産コラム・取材